「引き潮の魔女」〜 ジョン・ディクスン・カー著 (歴3)
[A] 本作の概略 〜 海辺で起きた殺人事件
(S-1) (舞台は1907年当時のイギリス。街の中で「タクシー」と「馬車」が共存し。海水浴で着る水着もだんだんと様変わりしつつあり、本作の中にも「最新流行の水着」などとおシャレになってきた頃のようです)。
(S-2) その他いろいろ伏線もあるようでして、本作には『シャーロック・ホームズの小説』のゆかりの地や場所が出てきます。例: 第一部 魅惑に出てくる「クライテリオン酒場」は『緋色の研究』に出てくる酒場のようです)。
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①-1 大胆に書くと内容としては次のようになります・・・若い美女「ベティ」と一緒になりたい、まさに今売出し中の精神科の専門医「デイヴィッド・ガース」だったが、突然現れた「警部 トゥィッグ」に惑わされる一方、親友「ヴィンス」と「マリオン」夫妻に言えぬまま、ある夜マリオンの後見人セルビー 大佐宅である事件が発生する。殺人未遂事件かと思われたその時「犯人」を知っていると「ある女性」が現れて・・・さらに少し経ったある日、海岸沿いの「ベティ」の家に向かったガースは「足跡のない事件」に直面する!
①-2 時代をさかのぼる、この「歴史ものシリーズ」では、時代背景や特徴的な背景、人の格好、乗り物などが紹介されてから、その後いろいろ人が出てきます。主としてイギリスの昔のことにはあまり詳しくない国の人にとっては、そこが少し時間がかかりますが、著者カーは、あの手この手を使って興味深い導入部をつくりあげて(たとえば大きな音を出す初期のタクシーや声を出す人が登場)スピード感(スリルとサスペンス)をもりあげておいて、本題の事件に入っていきます。
(Google マップ 本作の最初に出てくる「チャリング・クロス駅」)
[B 超みじかいあらすじ ] (ネタバレしないようにしているつもりの、ただし、時系列は順番を変えてストーリーも多少アレンジしています)
(序1 犯人は一体だれか? 動機は? )
(序2 主な舞台は「フェアフィールド」に近い海岸の別荘、主人公の診療所のある「ハーリー街」)
(序3 フランス北部、イギリスとの英仏海峡の南の地名のだいたいの位置。本作の序盤で出てくる海水浴などで有名な場所。おのおのの地図はこの下に3つ)
あらすじのはじまり 合間合間に 「Google マップ」をはさみます
②-1 ハーリー街。その建物には、主人公を含めて6人の医者が診療所を開いている。1階の大きな患者待合室は共同で使かう。ここに寝泊まりしているのはガースと「中年の独身外科医」の2人だけ。「デイヴィッド・ガース」は38才の精神科の専門医。今非常に気になっている女性が1人いる。名前は「ベティ」・・・。(1つの画像と3つぐらいのマップの下に続きます・・・)
Googleマップ 「(ロンドン周辺) 主人公ガースの診療所のあるハーリー街(ハーリー・ストリート Harley St.)」
本作の途中で関係する場所
(Googleマップ オステンド(Oostende)---ダンケルクの近く。ベルギー北西部の港町で避暑地。賭博場がある)
(Google マップ ダンケルク) 映画『ダンケルク』の舞台ともなった第二次大戦の激戦区。
Googleマップ トゥルーヴィル(Trouville Alliquerville)--仏北西部、イギリス海峡にのぞむ海港で海水浴場。賭博場がある。ダンケルクよりだいぶ南西mapの左下横。
②-2 ベティは28才、とび色の髪と目。4人姉妹だが、ちょっと孤独好きなとこもあって、今「特に夏の間は、フェアフィールドに近い海岸の家」にいる。そこの浜辺には水泳用(着替えなどをする)の小屋もあって、(引き潮の時にはよく見えるが)、その海中の杭(くい)が波の上の小屋を支えているのだった。彼女は4時頃泳いでその後お茶を飲むことがよくあった。しかも、彼女はおぼれかけている人を水中からひきあげる『王立人命救済協会』の会員。ガースはその風景の写真を2枚、診療所に1枚、もう1枚は胸ポケットに入れていた(彼女のことはまだ内緒だ!)。
(本作のある女性たちに関係する場所)パリ、モンマルトルにある有名な「ムーランルージュ」 画像はPixabayから)
②-3 ガースとベティに対して、ガースの親友「ヴィンセントとマリオン夫妻」が登場。・・・ある夜、 ハムステッドの高台にある大佐の家の「ブランシュ・モンタギュー夫人(セルビー家の家政婦で大佐の友達、マリオンは「ブランシュおばさん」と呼ぶ」から電話で来てくれないかとマリオンは頼まれる。彼女の「後見人で屋敷の所有者 ジョン・セルビー大佐(同じく、セルおじさんとマリオンは呼ぶ)」は毎週水金の晩はクラブで留守だった。「夫 ヴィンス(ヴィンセント)」もいつものように仕事熱心なのでいない。そこでタクシーに乗って行くことに。
(Google マップ ロンドンのハムステッド (ジョン・セルビー大佐とブランシュ・モンタギュー夫人の住む家)
②-4 家に着くとドアは開いている。その時! 「叔母」の叫び声が! そして妙な物音。・・・そこへ行くと「見知らぬ女が、叔母ののどを・・・!」マリオンの声は高くなった。・・・私が来たのを知ると、その女は逃げ出したので医者を呼び警察が到着。・・・そのマリオンの話を「ガース」はだまって聞いていた。彼女は言う「その女は、年は30くらい、背は私より4、5インチ低く、髪と目は茶色・・・」・・・帰ってきていたそこへヴィンスも近づいてくる。
②-5 ガースは上着の内ポケットから1枚の写真を出してマリオンに見せた。「この女ですか?」・・・そこには水着を着たある女が・・・「あっ!」とマリオンは大きく目を見開いた後しばらく絶句してふるえる指で指し示しながら・・・「こっ、こっ、この女よ〜〜!」。
Googleマップ ハイド・パーク・ガーデンズ(ヴィンスとマリオンの家)
②-6 (第二幕あたり、6月ある日曜の午後)重くるしい灰色の空の下。砂浜近くの「フェアフィールド」。すぐ近くには食事もできる「旅館 スタッグ・アンド・グラブ」もある。実は今日は車を置いて汽車できたのだった。海岸の遊歩道をガースは「バンチ」を過ぎて、さらに南に歩いて港町「レイヴンズポート」 へと「ベティ」の家をめざす。
ベティの家と「海中の小屋のような脱衣所」のイメージ図
②-7 すると、なぜか自分の緑色の車「パナード」に乗った「甥(おい) ヘンリー(ハル)・オーミストン」に会う。海辺は引き潮の時間。なのに「ハル」は言う「やあ、おっさん! ベティはさっき泳ぎに行ったよ。車から見ただけだけど」。ガースは?と疑う・・・「今は引き潮の時間だけど?」・・・「一緒に、アボットさんも乗ってたから確かだよ」。アボットとは「警視総監の秘書で 友人の カリングフォード・アボット」のこと。彼は捜査の指示などもする(なるほど・・・ということは犯罪捜査部の警部「ジョージ・アルフレッド・トゥィッグ」らも来て見張っているかも)。
②-8 ガースは「ハル」にガソリン代を払って別れると、ベティの家の中にいなかったので引き潮の中に立つ「脱衣所」を見に行く。杭(くい)に支えられたこの小屋はかっては「男女別に仕切られていた」ようだ。引き潮になると「その杭(くい)」は砂の上に姿を現す。今はベティが使っている。浜辺の方から入って「水着」に着替えて海に入る中継点とも言える。彼女はだいたい泳いだ後ここで「お茶」を飲むのが常だった。
②-9 辺りは妙に静かだった・・・様子が変? ゆえに、ガースはそ〜っと、そ〜っとその「小屋みたいな脱衣所」に入っていく。「ベティ」の姿は? 急に来たので静かに歩く。(どこ・・・?) 。「まだ温かいお茶のカップ(いけない、落っことしちゃった)」・・・机の上の何冊かの本、なになに? 「ミステリー 黄色いなんとか」や謎の作家「ファントムの赤い表紙の本」・・・壁には「泳いだ後に身につけるローブ・・・うん? ポケットには・・・な〜んだ、ハンカチかあ」・・・やがて、もう一方の部屋に入る。息がつまるほどの間があいて・・・彼は近づいていった・・・顔を下に向けた女性が横たわってた(おもわず声が出そうになった!)・・・ベティ? ベティ!! (どうした? おれだ! カースだ! あ〜なんてこと!!)
[ C ] 主な登場人物 と用語など (順不同 だいたい登場順)
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(序1 主な舞台は「フェアフィールド」に近い海岸の別荘、主人公の診療所のある「ハーリー街」からはじまる)
c-1 物語の主人公(含む探偵役)たち
③-1 今売り出し中の精神科の専門医。38才、やせぎすでインテリぶったことは大嫌いたがとびきりのロマンティスト : デイヴィッド・ガース
③-2 デイヴィッドの恋人(鳶色〜とびいろの髪、輝きの強い茶色(とび色)の目、およそ美人とは縁遠いが肉付きは良く、人の良さそうな、ものやわらかで控え目な内にも芯が強く) : ベティ・コールダー
③-3 デイヴィッドの両親(診療所の額縁に写真はある) : ?
③-4 当事件の犯人 : ?
c-2 デイヴィッドの近しい関係者
③-10 デイヴィッドの甥(おい)、物ぐさだが頭はすごく良く自分勝手に振る舞う、いつもお金をもらうが若造のくせに自信満々でデイヴィッドには嫌われている : ヘンリー(ハル)・オーミストン
③-11 デイヴィッドの助手 愛嬌のある頭の良い医学生。目立たないが仕事はまじめ、きちんとしている(以前 ベティには会ったことがある。ベティによれば感じの良い若い人) : マイケル・フィールディング
デイヴィッドの友人など
③-20 ハイド・パーク・ガーデンズに居を構えた、デイヴィッドの友人 裕福だが非常に仕事熱心で絶対に遊びに行かない。ミステリー小説は主人公と共に大好き : ヴィンセント(ヴィンス)・ボストウィック
③-21 その妻 暗赤色の髪に青い目、10才くらい上の落ち着きと自信を見せてる : マリオン
③-30 マリオンの後見人 (インドのベンガル駐在イギリス砲兵隊、退役。赤銅色に日焼けしたがっちりした体格で礼儀正しい年配の男) : ジョン・セルビー 大佐
③-31 セルビー家の家政婦(大佐の友達)、信心こころの深い : ブランシュ・モンタギュー 夫人
デイヴィッドの恋人の ベティの関係者
③-40 ベティの姉(姉妹は4人いるらしい) : グリニス・ステュークリー (G・S)
③-41 ベティの家政婦 : E・ハンシュー夫人
捜査関係者
③-90 犯罪捜査部の警部 : ジョージ・アルフレッド・トゥィッグ
③-93 警視総監の秘書 : カリングフォード・アボット
③-94 警視総監(特に登場場面はないが説明はある) : エドワード・ヘンリー卿
①-200 つづいて、本作に登場する用語のいくつかを次にあげてみる。
a-2-1 主人公の車
①-201 「パナード」。フランス製。色は緑。20馬力の大型5人乗り。ある2人が主人公の診療所まで乗ってきてエンジンが焼けてしまった。
a-2-2 いろいろ出てくる地名
①-202 本作に出てくるいくつかの地名などを(Googleマップを、あらすじの上の方にいくつか検索して貼っておきました。ただストーリー上重要な地名でも。当時の名前で検索できない場合〜「例 : 港町レイヴンズポート」などもあり、創造上の地名や場所も小説なのであり得ますから、調べた結果わからなければ、あるいは、複数あって特定できない場合は省略しました。)。
a-2-3 「 遊冶郎 (ゆうやろう)」 第一部 魅惑
プレイボーイといった感じでしょうか? 裕福で遊び人、道楽者。・・・な感じ(裕福で、風貌はそうだが仕事に精を出し遊ばない男のヴィンスに対するガースの感想)。
a-2-4 「撞球(どうきゅう)室」 ほとんど本作のラストあたり
ビリアード(台)のある部屋のことで、「撞球(どうきゅう)」という文字はぴったりかもしれません。
[ D ] まとめ的な・・・本作は?
d-1 「献辞」
⑤-1 本作の場合(kindle版)は、巻頭の目次の前に「これをノラと・・・(中略)・・・に捧ぐ」と献辞があります。
⑤-2 ご存じのように、「ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr)」の人気作品には、いろいろな主人公(探偵役)が登場します。「アンリ・バンコラン(Henri Bencolin)予審判事」、「ギディオン・フェル(Gideon Fell)博士」、「警視総監直属D3課長マーチ大佐(Colonel March)、主に短編で登場」などです。一方、別名義の「カーター・ディクスン(Carter Dickson)」で発表した作品では、「通称H・Mこと、ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)」が主に活躍し、その彼が登場する長編第1作目は「プレーグ・コートの殺人(The Plague Court Murders)」ですが、こちらも人気の主人公です。
⑤-3 対しまして、今回とりあげる「引き潮の魔女 」(原題は「The Witch of the Low-Tide 」)は、1907年くらいの割と近い時代、とは言え「女性の水着などは時代とともに大きく変化してきており、それを写真付きでまとめたサイト」もあり参考にしました。・・・歴史上の実際の事件については(あとがきなど注釈もなかったので、印刷物としての本なら付いてかもしれませんが)わかりませんでした。一般的に「歴史ミステリー(当時よりも以前の時代背景のもの、という感じ)」ものの長編(おおよそ14ぐらいの数、次の[E]にほぼ書名だけまとめてあります)小説の1つで1冊で完結です。
d-2 出版情報
⑤-10 「引き潮の魔女(The Witch of the Low-Tide) ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr)著 ハヤカワ・ミステリ文庫 小倉多加志訳 (早川書房 電子書籍版)」
[ E ] カーの「歴史ミステリー(あるいは時代物とも言われる)」シリーズ
以下の一覧表のように、実はkinlde で読める「歴史ミステリー(あるいは時代物)」シリーズはもうありません。そこでこのブログでの記事も終わりになりますが、せっかくですからフェル博士やH・M卿の時にそうしたようにkindleがまだのものも簡単に紹介できれば記事だけ書きまして、kindleで出版されましたら別途正式に記事にするという手段で「仮の記事」を書いておきます。
⑥-1 一覧です(タイトルはおおよそ『ハヤカワ・ポケット・ミステリー』、『創元推理文庫』、『角川出版』などの旧版出版の時と思われます。kindleにあるかないかは問わず、wikiなどによる)。翻訳は絶版になっているものもあり、新訳版もしくは原書(英語版)があれば、さらには旧訳の復刻版などという感じです。一部戦ラジオ放送されたカーシリーズ(YouTube 音声のみ、英語版、字幕はなかったような・・・)に入っているかもしれません。音声のみのAudioソフト本については調べておりません。
⑧-2近年、ジョン・ディクスン・カーの本については新訳本がよく出てきているので、「kindle(文字の大きさを変えられる)+新訳本(用語などの脚注付き)」を切望しているところであります。
⑧-3(特に人気は、1、2、4、かな? 歴史ものはほとんど読んではいないので・・・)
(1) ニューゲイトの花嫁 (原題 : The Bride of Newgate)
(2) ★ビロードの悪魔 (The Devil in Velvet)
(3) 喉切り隊長 (Captain Cut-Throat)
(4) 火よ燃えろ!(Fire, Burn!)
(5) ★ハイチムニー荘の醜聞(Scandal at High Chimneys)
(6) (本書)★引き潮の魔女(The Witch of the Low-Tide)
(7) ロンドン橋が落ちる(The Demoniacs)
(8) 深夜の密使 (Most Secret) (番外2)の改題後のもの
(9) ヴードゥーの悪魔(Papa Là-Bas 何語? 南米? スペイン? ) (原書房刊、村上和久訳、「ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ」だそうです。netの情報による)復讐物だそうです。
(10) 亡霊たちの真昼 (The Ghosts' High Noon)
(11) 死の館の謎(Deadly Hall)
(12) 血に飢えた悪鬼(The Hungry Goblin ) 探偵役に「小説 月長石」のウィルキー・コリンズが登場。
(番外1 ) (カーター・ディクスン名義) 恐怖は同じ(Fear Is the Same)
(番外2) 上述の「深夜の密使」の改題前のもの「Devil Kinsmere (1934) 」 ロジャー・フェアベーン名義
(以上です、wikiなどによる)
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ではまた!