「ハイチムニー荘の醜聞」〜 ジョン・ディクスン・カー著 歴2
[A] 本作の概略 (「ハイチムニー荘(High Chimneys)」は登場人物の一家が住む屋敷のことです)
(a-1) 著者ジョン・ディクスン・カーが、小説の時代の街並みやその背景の資料を非常に細かく考証し小説に反映しています。『(前回の)ビロードの悪魔』同様、いってみれば「歴史(時代物)ミステリー」という分類に入る、歴史上の実在の年代・場所・登場人物・事件を織(お)り交ぜた虚々実々のストーリーとなっています。本書の場合は、巻末には著者(ジョン・ディクスン・カー)自身による執筆(確かな文献を参考にしている旨など)における解説、訳者あとがきなどがあり日本の読者層にとってはあまり馴染みのないことについての説明も紙面の制約があるとは言え、されています。
(a-2)本作では、歴史上の実在の事件『1860年にイングランド南部で起きた コンスタンス・ケント(Constance Kent)の事件』やその捜査に加わっていたある実在の刑事「スコットランド・ヤードの警部 Jack Whicher (本作中の唯一の実在の人物と「注記」に書かれています。その人物の横顔も実在の人物に対するものと似てます)」にも触れています(「訳者あとがき」などをご覧ください)。
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a-1 おおよその本作の内容 補足として[B 超みじかいあらすじ]もあわせてどうぞ
①-1 (舞台は1865年当時のイギリスです) 大胆に書くと内容としては次のようになります・・・かっての事件の関係者が自分の子供たちの中にいる・・・とある男は告げるが・・・その話の途中で・・・(原作の発表年は1959年)。
①-2 海外ミステリー小説では中々、登場人物の名前がややこしい・・・上に、読み進めば進むほど、新しい名前が出てくる・・・しかし、どんどん読みたくなる(一読・・・)。
①-200 つづいて、本作に登場する用語のいくつかを次にあげてみる。
a-2-1 クリノリン
①-201 「クリノリン(crinoline)」は、1850年代後半頃から「スカートを膨らませるために用いられる」輪状の骨組みの「ペチコート(スカートの中に入れる釣り鐘型フレーム made out of spring steel wire)」のような下着。流行につれて大きさもだんだんと・・・しかし、サイズが大きすぎると動作に影響したりしたらしい
a-2-2 豪華な5つ星ホテル
①-202 豪華な5つ星ホテル 本作後半に少し登場する「マイヴァーツ・ホテル(? 調べたけどよくわからない)」は、「(現在では) クラリッジズ・ホテル(Claridge's)」であり、一流のホテルとして歴史的に有名なホテルらしいです(巻末の著者注記による)。いわゆる「ロンドンの格調高く、めかしこんで行く空間」として名高いです。
Google マップ クラリッジズ Claridge's, Brook Street, London, UK
a-2-3 横死(おうし)
①-203 横死(おうし) : 不慮の死。非業の死。事故・殺害など、思いがけない災難で死ぬこと 「〜を遂げる」
a-2-4 『法廷弁護士』と『事務弁護士』
①-204 『法廷弁護士(バリスター・アト・ロウ)』と『事務弁護士(ソリシター)』: 弁護士「パトリック・バトラー」が活躍するカーの小説『疑惑の影(Below Suspicion)』と『バトラー弁護に立つ(Patrick Butler for the Defence)』、その他「ヘンリー・メリヴェール卿が登場する小説」などにわかりやすい法廷の状況や説明があります。カーの小説にはよく出てきます。
a-3「概略」の続き にもどります
①-210-1 ご存じのように、「ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr)」の人気作品には、いろいろな主人公(探偵役)が登場します。「アンリ・バンコラン(Henri Bencolin)予審判事」、「ギディオン・フェル(Gideon Fell)博士」、「警視総監直属D3課長マーチ大佐(Colonel March)、主に短編で登場」などです。一方、別名義の「カーター・ディクスン(Carter Dickson)」で発表した作品では、「通称H・Mこと、ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)」が主に活躍し、その彼が登場する長編第1作目は「プレーグ・コートの殺人(The Plague Court Murders)」ですが、こちらも人気の主人公です。
①-210-2 対しまして、今回とりあげる「ハイチムニー荘の醜聞」(原題は「Scandal at High Chimneys」)はとても面白くできていて、歴史上の実際の事件も取り込んでの一般的に「歴史ミステリー(当時よりも以前の時代背景のもの、という感じ)」ものの長編(おおよそ14ぐらいの数)小説の1つで1冊で完結です。
a-4 献辞と「好事家のための注記」と「訳者あとがき」
(op-1)本作の場合は、巻頭の目次の前に「ジョウン・・・(中略)・・・に捧ぐ」と献辞があります。
(end-1) また巻末には「著者(ジョン・ディクスン・カー)自身」による「好事家のための注記」が数ページにわたって書かれています。内容は「1 地形」、「2 貧困など・・・(後略)」、「3 夜の生活」、「4 一切を伏せておく」、「5 元警部 ジョナサン・ウィッチャー」、「6 要約」。 (本作は「1865年当時のいくつかの・・・生活を・・・活写しよう・・・」ということが趣旨と冒頭に書かれていますし、歴史が大好きな著者らしく、膨大な数の参考文献についても論文なみにしっかりと言及されています)。また、カーの愛読書の1つ「ディケンズ」関係についても少なからず記載があります。
(end-2) さらに、同じく巻末には「訳者」による「訳者あとがき」が数ページにわたって書かれています。内容は、主に日本では馴染みのあまりない「コンスタンス・ケント事件」について書かれています。なお、当あとがきの最後に出てくる「戸川安宣(とがわ・やすのぶ)」氏とは「東京創元社の元会長で元社長、そしてミステリ評論家、元本格ミステリ作家クラブ事務局長」などとあります(wikiによる)。
a-5 出版情報
①-10 「ハイチムニー荘の醜聞(Scandal at High Chimneys) ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr)著 ハヤカワ・ミステリ文庫 真野明裕訳 (早川書房 電子書籍版)」
[B 超みじかいあらすじ ] (ネタバレしないようにしているつもりの、ただし、時系列は順番を変えてストーリーも多少アレンジしています)
(犯人はとても意外な人物です! ストーリー展開は、いつものように、どんどんスピードを上げていく感のスリルとサスペンスに満ちた謎解きになっております。)
②-1 「そこ」の柱の間から見ていたクライヴは、その『売店』に向かって次々と3人が通っていくのをスローモーション映像のように見ていた。「あの娘」・・・「あの嫌な奴」・・・「おおっ、お前もか!」・・・やがてその『オレンジとキャンディ、車海老などを売っている店』の娘「チェリー」は何かの袋を台の下から出しつつあった・・・(そこへ、多くの人がなだれ込んでくることになろうとは! クライヴはとうとう我慢できなくなって・・・ )。
②-2 1865年10月のある晩、18:00頃、ドーヴァー・ストリートの「ブライス・クラブ」の前で作家「クライヴ・ストリックランド」は辻馬車から降りた。「君は確か法廷弁護士(バリスター)の資格も持ってたな! 相談したいことがあるんだ! 早くしないと危険なんだ! 親友の君だから頼むなだ!」・・・クライヴは「う〜ん・・・でもね・・・彼女たちの顔をさ、あのさ・・・」。ヴィクターは『ハイチムニー荘』の主「マシュー・デイマン」の息子(遊び人で当然お金はよく使う)である。
②-3 ヴィクターのたっての願いを聞き入れて「ハイチムニー荘」にいくことにしたクライヴは、ヴィクターの両親「マシュー」と「後妻 ジョージェット」と偶然汽車で一緒になる。「屋敷は執事 バービジ」がいるので大丈夫というが、何か心配事がある様子。「ところで、ストリックランド君はどうして?」と聞かれてクライヴは説明。するとマシュー・デイマン氏が驚いたように言う「なんですって? 結婚を・・・!?」。
②-4 やがてバークシャーにあってレディング駅から4マイル(1マイルは約約1.6kmなので、6.4km)の「ハイチムニー荘」に着くと、そこには美しい娘「ケイト」と「シーリア」姉妹が女中頭「(元乳母らしい) キヤバァナ夫人」が一緒にすごしているという。さらには「主治医、ロロウ・トンプソン・ブランド」も同居。バービジの娘「ピネラピ」も来ているという。奉公人たちは彼らの部屋で夕食をとっているらしい)。
②-5 この時もキヤバァナ夫人は娘たちの相手をしていた。父と母ジョージェットは何をしにロンドンに行ったのかしら?ということである。 屋敷の中ではちょっとしたうわさになっていた。「時々はめをはずす、ヴィクターが心配だったのでは?」とか、「いえいえ、なんでも、刑事警察の警部だった人で今では私立興信所長をしている「ジョナサン・ウィッチャー」さんと話があったらしい・・・」とか・・・いろいろと想像が膨らんでいた・・・「お母様(ジョージェット)」はまた劇場にでも寄ったのかしら? 「アルバート・トレシダー卿」とすれちがってたりして・・・。それより、あのクライヴって人何しにきたの? 「えっ! 結婚? 誰の?」。
②-6 夜が近づいて雷が鳴っていた。それから、クライヴはケイトに会った。黒髪に茶色の目。そして、2人は数秒の間、時計が止まったかのように・・・そして、また雷がなった・・・何かが近づいてくるような・・・そして・・・。
②-7 その夜12時前だったか「マシュー・デイマン」は、うつらうつらとしながら「執事バービジ」の娘「ピネラピ」が、「レディングで開かれるある講演会に行きたい」というので門限を超える可能性が出てきたので渡してあった「鍵」を使って裏口から屋敷に入ってくるのを感じた・・・彼女の足音が「屋敷内の玄関ホールから正面階段」へと歩く音が聞こえてきた・・・その時! 何かが見えた! (階段の上に黒い影が・・・フロックコートに柄物のズボン・・・足には???)・・・「だれ? そこにいるのは・・・」とピネラピが声を出したのが聞こえたかと思うと・・・屋敷中の者たちが飛び起きるような悲鳴が聞こえてきた! ・・・ 「キャ〜〜ッ!」
[ C ] 主な登場人物 (順不同 だいたい登場順)
(序2 主な舞台は「バーキシャー州、レディング駅からから4マイル」のところにある「ハイチムニー荘」)
c-1 物語の主人公(含む探偵役)たち
③-1 『オール・ザ・イヤー・ラウンド』誌に新しい連載小説を執筆中の作家(かっては、法廷弁護士だった) : クライヴ・ストリックランド
③-2 クライヴの友人 『ハイチムニー荘』のマシュー・デイマンの息子 、クライヴにドーヴァー・ストリートの「ブライス・クラブ」で相談をもちかける。(21才くらい、やせぎすで繊細な顔立ち、薄茶色の髪、かなり濃い口ヒゲ、遊び人) : ヴィクター
③-1-b クライヴのアパートの自分の部屋の家政婦 : クゥイント夫人
③-0 当事件の犯人 : ?
c-2 友人の屋敷 『ハイチムニー荘』の関係者
③-3 法廷弁護士(バリスター・アト・ロウ)だが法廷での仕事をせずとも親譲りの財産があって、とても裕福。後添えの妻、2人の美人の娘、そして息子を持つ : マシュー・デイマン
③-4 マシューの新しい妻(後添え) : ジョージェット (鳶とび色の髪)
③-5 マシューの娘(ジョージェットの義理の娘、姉) : シーリア (茶色〜金髪、慎み深いが繊細、20才くらい、美人)
③-6 同(ジョージェットの義理の娘、妹) : ケイト (黒髪、大胆で活発、19才くらい、こちらも美人)
③-12 女中頭(娘たちにとっての元乳母) : メアリ・ジェイン・キャヴァナ夫人
c-2 『ハイチムニー荘』の奉公人など
③-10 デイマン家の執事 : バービジ
③-11 裕福な某貴族の家庭教師だがハイチムニー荘に父を訪ねてやってきた、バービジの娘 : ピネラピ
③-13 同家の主治医 : ロロウ・トンプソン・ブランド
c-3 その他の奉公人
③-24 馭者(ぎょしゃ、馬車の御者)
③-25 ジョージェット夫人の小間使い : ホーテンス
その他
③-30 主人公たちからは嫌われがちな、ハイチムニー荘にも出入り自由、夫人とも親しげな様子の何かと怪しげな言動を繰り返す、息子ヴィクターの裕福な友人、通称「トレス」 : アルバート・トレシダー卿
③-31 私立興信所長(スコットランドヤードの元警部) : ジョナサン・ウィッチャー (歴史上の実在の人物で、『コンスタンス・ケント事件』の捜査を担当した「スコットランドヤードの元警部 Jonathan "Jack" Whicher」がモデル)。
③-32 ドーヴァー・ストリートの「ブライス・クラブ」の玄関ボーイ : ピアスン
③-33 ハリエット・パイクの息子で、サンドハースト陸軍士官学校で2年いて射撃・乗馬の訓練は受けたが、陸軍には入らなかった男 : ?
③-34 ハリエット・パイクが「コンスタンス・ケント事件」に関係する手紙を出していた当時2つの相続で裕福だった男性 : アイヴァ・リッチ
③-36 1846年に絞首台に送られた事件の容疑者の女性(その事件の法廷弁護士(バリスター・アト・ロウ)が、今のマシュー・デイマン) : ハリエット・パイク
歴史上の実在の事件 「コンスタンス・ケント事件(1860/6/29日夜〜30日朝)」の関係者
③-70 ウィルトシャーのロード村の自宅「ロード・ヒル・ハウス」で遺体となって発見された男児 : ?
③-71 教会の牧師への告解(こっかい)を通して自供、その自供を否定せず、弟殺しの容疑で逮捕された姉 : コンスタンス・ケント
捜査関係者
③-80 『ハイチムニー荘の事件』でマシュー・デイマンや主人公らに依頼を受けた、私立興信所長(スコットランドヤードの元警部) : ジョナサン・ウィッチャー
(補足) ジョナサン・ウィッチャーは、(歴史上の実在の人物で、『コンスタンス・ケント事件』の捜査を担当した「スコットランドヤードの元警部 Jonathan "Jack" Whicher」がモデルというか、そのまま登場)。
③-81 今回の『ハイチムニー荘で起きた事件』で、ウィッチャーの捜査に協力している「(劇場の内部にある遊歩道の売店)オレンジやキャンディなどの女の売り子」: チェリー
③-82 同、ウィッチャーの捜査に協力している刑事課の警部 : ハックニー
③-83 「スコットランドヤード」の総監 : メイン・リチャード卿
③-86 同、警部 : ハックニー
③-87 かってコンスタンス・ケント事件で登場したイギリス南部の『ウィルトシャー州警察』 警視 : フォウリー
③-89 『ハイチムニー荘で起きた事件』担当のバークシャー州警察の警視 : マスウェル
③-90 同行してきた、その部下 : ピーターズ巡査
[ E ] カーの「歴史ミステリー(あるいは時代物とも言われる)」シリーズ
⑧-1 一覧です(タイトルはおおよそ『ハヤカワ・ポケット・ミステリー』、『創元推理文庫』、『角川出版』などの旧版出版の時と思われます。kindleにあるかないかは問わず、wikiなどによる)。翻訳は絶版になっているものもあり、新訳版もしくは原書(英語版)があれば、さらには旧訳の復刻版などという感じです。一部戦ラジオ放送されたカーシリーズ(YouTube 音声のみ、英語版、字幕はなかったような・・・)に入っているかもしれません。音声のみのAudioソフト本については調べておりません。
⑧-2近年、ジョン・ディクスン・カーの本については新訳本がよく出てきているので、「kindle(文字の大きさを変えられる)+新訳本(用語などの脚注付き)」を切望しているところであります。
⑧-3(特に人気は、1、2、4、かな? 歴史ものはほとんど読んではいないので・・・)
(1) ニューゲイトの花嫁 (原題 : The Bride of Newgate)
(2) (本書)ビロードの悪魔 (The Devil in Velvet)
(3) 喉切り隊長 (Captain Cut-Throat)
(4) 火よ燃えろ!(Fire, Burn!)
(5) ハイチムニー荘の醜聞(Scandal at High Chimneys)
(6) 引き潮の魔女(The Witch of the Low-Tide)
(7) ロンドン橋が落ちる(The Demoniacs)
(8) 深夜の密使 (Most Secret) (番外2)の改題後のもの
(9) ヴードゥーの悪魔(Papa Là-Bas 何語? 南米? スペイン? ) (原書房刊、村上和久訳、「ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ」だそうです。netの情報による)復讐物だそうです。
(10) 亡霊たちの真昼 (The Ghosts' High Noon)
(11) 死の館の謎(Deadly Hall)
(12) 血に飢えた悪鬼(The Hungry Goblin ) 探偵役に「小説 月長石」のウィルキー・コリンズが登場。
(番外1 ) (カーター・ディクスン名義) 恐怖は同じ(Fear Is the Same)
(番外2) 上述の「深夜の密使」の改題前のもの「Devil Kinsmere (1934) 」 ロジャー・フェアベーン名義
(以上です、wikiなどによる)
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ではまた!